請願第4号 悪質商法を助長するクレジットの被害を防止するため、割賦販売法の抜本的改正を求める意見書を政府等に提出することを求める請願
受理日:平成19年11月26日
付託委員会:福祉教育常任委員会
議決日:平成19年12月20日
議決結果:採択
採決状況:全員一致
田中智義
〔請願の趣旨〕(要 旨)
入間市議会が、国会及び経済産業省に対し、クレジット契約を利用した悪質商法被害・過剰与信被害を防止するため、割賦販売法を以下のとおり抜本的に改正するよう求める意見書を提出することを採択していただくよう請願致します。
記
1.〔過剰与信規制の具体化〕
クレジット会社が、顧客の支払能力を超えるクレジット契約を提供しないように、具体的な与信基準を伴う実効性ある規制を行うこと
2.〔不適正与信防止義務と既払金返還責任〕
クレジット会社には、悪質販売行為等にクレジット契約を提供しないように、加盟店を調査する義務、及び、違法な取引にクレジットを提供したときは、既払い金の返還義務を含むクレジット会社の共同責任を規定すること
3.〔割賦払い要件と政令指定商品制の廃止〕
1〜2回払いのクレジット契約を適用対象に含め、政令指定商品制を廃止することにより、原則としてすべてのクレジット契約を適用対象とすること
4.〔登録制の導入〕
個品方式のクレジット事業者(契約書型クレジット)について、登録制を設け、契約書面交付義務及びクーリング・オフ制度を規定すること
〔請願の理由〕
1.クレジット被害の深刻化
クレジット契約は、代金後払いで商品が購入できる利便性により消費者に広く普及している一方で、強引・悪質な販売方法と結びつくと高額かつ深刻な被害を引き起こす危険な道具にもなります。
埼玉県富士見市で一昨年に発覚したリフォーム詐欺業者の次々販売被害は、年金暮らしで判断能力が低下した高齢者が、訪問販売の方法により合計4000万円以上のリフォーム工事をクレジット契約を利用して次々と契約させられ、支払いができずに自宅が競売に付されたことで発覚したものです。この事件で自宅の競売申立は、リフォーム業者ではなくクレジット会社が行ったものであり、悪質リフォーム業者はクレジット契約があるからこそ消費者の支払能力を無視して販売することが可能であったと言えます。
その他にも、クレジットを利用した呉服・布団・貴金属などの次々販売被害が多数発生しており、いずれも年金暮らしの高齢者が支払能力を超える大量の商品を契約しているのは、クレジット会社の与信審査の甘さが存在するからこそ、販売業者は消費者の支払能力を無視した次々販売が実行できたのです。
また、若年層を対象としたアポイントメントセールスや、詐欺的なマルチ商法・内職商法被害は、以前から繰り返し発生しているものですが、これらもクレジット契約があるからこそ、強引な又は欺瞞的な勧誘により一気に高額の契約を締結させることができるものです。
本年1月10日には、山口組系暴力団員が運営していた絵画レンタル商法業者が組織犯罪処罰法違反の疑いで逮捕されましたが、これもクレジット契約を利用するからこそ実行できる詐欺商法であり、クレジット会社の審査の甘さが暴力団の資金源として利用されたものです。
2.クレジット制度の構造的危険
クレジット契約は、商品の販売と代金の回収が分離されることから、販売業者にとっては、購入者の支払能力を考慮することなく高額商品を販売でき、クレジット会社から立替金をすぐに受領できるため、強引・悪質な販売方法により契約を獲得し、代金を取得した後は誠実な対応をする動機付けがなくなります。
とりわけ個品方式(契約書型)のクレジット契約は、顧客の獲得や支払条件を交渉や契約書類の作成等の営業活動の大半を提携先加盟店に委託して、効率的にクレジット契約を獲得し経済的利益をあげているため、クレジット会社としては、加盟店の不適正な販売行為に対する審査が不十分になりがちです。
このようにクレジット会社と加盟店は、商品の販売と信用供与の取引について密接不可分な関係に立っており、「クレジットを利用した商品販売という共同事業」とも評価しうる実態があります。つまり、クレジット契約を利用するがゆえに悪質な販売行為を誘発しがちであり、深刻な消費者被害が発生しやすいという意味で、クレジット契約の構造的危険性から生じる病理現象としてのクレジット被害が多発している実態があります。
3.割賦販売法の抜本的改正の方向性
このように深刻なクレジット被害を防止するため、経済産業省の産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会は、2007(平成19)年2月から、クレジット被害の防止と取引適正化に向けて割賦販売法の改正に関する審議を進めています。本年秋には法改正の方向性が示され、2008(平成20)年春の通常国会に同法の改正案が提出される見込みであることから、今が極めて重要な時期にあると言えます。
クレジット被害の防止と取引適正化を実現するためには、クレジット会社自身がクレジット契約の構造的危険性を防止する責任を負い、発生した損害をクレジット会社が負担する法制度を整備することが重要です。これによって、クレジット会社が自らのリスク回避のために自主的な法令順守行動(コンプライアンス)を推進することとなり、これを通じて消費者に対し安心・安全なクレジット契約が提供されることになります。
4.割賦販売法改正の主な課題
(1)過剰与信規制
現行割賦販売法38条は、購入者の支払能力を超える与信を行わないよう努めなければならない旨規定しているものの、法的な責任を伴わない訓示規定に過ぎないため、結局は、クレジット会社の自由裁量により過剰な与信が繰り返されてきました。そこで、消費者の収入と既存債務額に照らし一定の具体的な基準を超える契約については、顧客の支払能力を超える恐れがある契約として、返済財源や購入動機等の個別的調査義務を課すなど、実効性ある過剰与信防止規定を設けるべきです。
(2)不適正与信防止義務と既払金返還責任
現行法は、クレジット会社が、提携先加盟店の販売方法をチェックする義務規定がなく、経済産業省(通商産業省)から業界団体に向けて加盟店管理を求める通達が発せられてきたにとどまります。また、商品販売契約が解除・取消・無効となるような違法な場合でも、消費者がこれに気付いた後の未払金債務の支払いを拒絶できるにとどまり、それまでに支払った既払金の返還義務までは認められていません。そこで、クレジット会社は、不適正な与信を防止する義務を負うこと、不当な取引にクレジットを提供したときは既払金の返還を含む共同責任を負うことを規定すべきです。
(3)割賦払い要件及び政令指定商品制の廃止
現行法の規制対象は、支払回数(割賦払い要件)や取引対象品目(政令指定商品制)による制約があるため、悪質販売業者の中には、年金暮らしの高齢者に半年・1年後の一括払いを勧めるなど、割賦販売法の規制を逃れる被害事例があります。また、さまざまな商品・サービスが取引されている現状で、取引対象品目を制限する合理性はありません。そこで、規制の抜け穴をなくすために、原則として、全てのクレジット契約を規制対象にすべきです。
(4)個品方式のクレジット事業者の規制
訪問販売業者に利用されている個品方式(契約書型)のクレジットは、取引高では約2割にとどまるのに、苦情相談件数では約8割を占めています。にもかかわらず、個品方式のクレジット事業については、登録制度も契約書面交付義務もないため、不適正なクレジット取引を規制する実効性が確保できません。そこで、個品方式のクレジット事業者について、登録制を設け、契約書面交付義務及びクーリング・オフ制度を規定すべきです。
(5)弁護士会、司法書士会、消費者団体等の動き
以上の認識に基づき、全国各地の弁護士会、司法書士会、消費者団体等において、割賦販売法の抜本的改正を求める意見書を発表したり、全国的な署名活動等が展開されています。
5.結び
以上の理由により、クレジット取引における消費者の安心・安全を確保する観点から、貴議会に請願致します。